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「だんだんこども食堂」(東京都大田区)の近藤博子さんにお話しを伺いました。
近藤博子さん:
一般社団法人ともしびatだんだん代表。2012年8月よりだんだんこども食堂を始める。こども食堂の草分けと言われる存在で、こども食堂以外にも、子どもにも大人にも居場所となるような地域コミュニティ活動を行っている。その活動が高く評価され、2016年 第47回社会貢献者表彰、2019年 第3回食育活動表彰 農林水産大臣賞、2023年 第57回吉川英治文化賞を受賞。地域社会に根差した活動は全国に広がり、多くの共感と支持を集めている。

聞き手:岩崎(イノベーションホールディングス)
―こども食堂は「かわいそうな子が行くところ」ではない
岩崎:私たちの「お店のこども食堂」だけではなく、世間的にこども食堂をやろうという飲食店さんは増えていると思います。一方で、「やってもなかなか子どもが来ない」という話もよく聞くようになりました。ただ、私たちは以前から、子どもたちのためには「何人集まれるか」という人の多さだけではなく、「いつでも立ち寄れるこども食堂が、数多くそこにあれば良い」という場所の多さも大切だと考えています。
近藤:こども食堂は、かわいそうな子が行くところではない、誰でも行っていいんだと一所懸命にアピールしている人たちもいますが、世間的には「かわいそうな子が行くところ」という認識がまだまだあるわけです。これはこども食堂をやる方の人間も意識しなければならない点で、「どの子がかわいそうな子かな?」「どの子が困っているかな?」といった目で探してしまうこともあるので、そこは気をつけたいですね。
岩崎:私たちも学んではいますが、社内にはまだまだ「かわいそうな子が行くとこでしょ?」という認識の人がいるのも事実ですね。
近藤:結果的にそういう子どもが行きやすい、そういうお母さんたちが行きやすい場でもあるのですが、それは結果としてです。ただし、だからといってこども食堂は、楽しく食べて「良かったね」という場所だけというわけでもないんです。初めて顔を合わせる大人と話す経験を積んだり、地域や社会にとって昔は当たり前だった人とふれあって自然と学んだりといった大切な要素がたくさんあるんです。
―食べ物支援のその先に
近藤:今「人が大事」とかって言う割には大事にされていない社会だったりするでしょ。「子どものことを考えなくちゃ」という大人がじわじわと増えてきているのは間違いないと思うんです。国も「子ども、子ども」って言うようになった。「こどもまんなか社会」とか「子ども若者応援」とか、若者の声を聞くとか、子どもの声を聞くとか、そういうのが強くなってきて、「こども家庭庁」ができた。このこと自体は悪くはないと思っています。
日本はサービスという名のもとに、いろんなことをやってあげちゃう国ですよね。それがその人にとって本当にいいかどうかもよく分からないサービスもどんどんやる。高齢者も、高齢者サービス、高齢福祉の中でお世話することが良いことになって、結局、本当は歩けるのに歩けなくなってしまったり、本当は食べられるのに胃瘻にして、結局寝たきりになっちゃったり、なんて話も聞きます。その人のできることまでを奪ってしまうという危険さがある。
こども食堂だ、こどもフードパントリーだ、フードバンクだ、というのも大きな流れになっている。そうすると、自分でできることまでも周りが奪ってしまう危険性があるのかなと思っています。
食べ物を配ることが本当にいいことなのか? 確かにその食べ物は命をつなぐし、人もつなぐので大事です。でも配って終わりじゃないですよね。配りながら、その人たちが少しでも自分でできることはやってもらう。働きたいなら、働いてもらう。でも、そこまでの社会づくりはされていない。
―こども食堂の役割
近藤:こども食堂の数は1万箇所以上になったそうです。この数を聞いて、こども食堂をそんなに増やさなきゃいけないほど冷たい社会ですか? と思ってしまいます。私は 13 年こども食堂をやってきたけど、こんなに増えるということは、だんだん冷たい社会になってきてしまっているのかもしれませんね。若者の自殺は減らないし、こどもの虐待も減らないじゃないですか。こんなにこども食堂が増えているのに、なぜなのかなって疑問に思っちゃうんですよね。こども食堂がどこまで増えたら、自殺や虐待が少なくなっていくのか?本当はこども食堂を作るのではなくて、ちゃんと人のことを思いやるような社会をどう作っていくかを考えるのが重要ではないでしょうか。
目の前のことには対応する必要がありますが、そもそものところをもっと私たちは議論していく必要があります。起きた問題に対してどうするかよりも、問題が起きないようにどうするかを話していきたいですね。どんな地域になったら良いのか、どんな地域にしたらお母さんたちは子育てがしやすくなるのか、こういうことを議論する場をさらに作っていくべきだと思っています。
岩崎:予防に目を向けている人がほぼいないというのはたしかに問題ですね。以前にも近藤さんと対話させていただいたのですが、「こども食堂は本当に必要なのか」というもっと根本的な問いもあります。昔は「集会所」がどんな地域にもありましたよね。土日になるといろんな世代の人が集まる場所。近所のお爺さんが子どもたちと将棋を打っていたり、集会所のキッチンで煮物を作ってふるまっている料理自慢のお婆さんがいたり。こども食堂もそうなればいいと思うんです。

―支援の継続
岩崎:今、児童養護施設は 18 歳で出なくてはいけません。学習支援もその後のサポートや、企業とのコラボレーションができているか?と言ったら、線ではなくて点でブツっと切れてしまっている。そこは考えなきゃいけないというのはすごく感じています。
というのも、実は先日、子どもたちの学習を中心にサポートをするNPO法人キッズドアさんに訪問してお話をうかがいました。コロナ禍で「ファミリーサポート事業」を始めて、その中で就業支援もやっています。就業するための資格取得の勉強を無償で提供しているのですが、資格を取ったら終わりではなく、その資格をどうやって活かすかを講師を招いてセミナーを実施するなど継続的なサポートをいろいろされていると聞き、そういう所はちゃんと考える必要があると実感したのです。
近藤:例えば学習支援でいえば入学させるので精一杯なのだろうとは思うのですが、入学して勉強を続けるところまでお手伝いが必要な子たちを放り投げることになってしまうわけです。家庭がそれをフォローできない状況だから学習支援が必要になっているのに「入学して終わり」では勉強を続けられません。ちょっとのことで折れてしまう可能性もあるので、そこが大きな問題にもなってきます。
ですが、おそらく以前から学習支援をやっていた人たちはこの点に気づいていたのではないでしょうか。じゃあどうしたらいいの?というところに踏み込んでいく「きっかけ」のところにいるのかなと思います。
―誰が子どもたちを支えるのか本気で考える時だ
近藤:こども食堂は、無理せずにやれることを継続するのが一番いいんです。今、こども食堂の運営団体の多くが、お金をもらって食材を買って、それを発送したりしています。それを民間がやらなきゃいけないほど国がダメになってきているとも言えますよね。 本当にそれでいいのか、国や自治体が考えるべき時だと思うんです。
しかし「いいことだから頑張ってやりましょう」という雰囲気の方が強いのが、すごく疑問なんです。例えばそのお金を使って大学までの教育を完全無償化する。そういうことを国が保障してあげることで、どんな家庭に育った子でも安心して教育が受けられる状況ができるのではないでしょうか。
子どもが減っているにも関わらず、子どもの教育に困っている人がわんさかいます。本当に子どもが 100 人しかいないなら、その100 人全員が優秀な納税者になってもらわなければ日本はアウトなんですよ。
別にやりたくない仕事をやれと言っているわけではなくて、やっぱり自分が就きたい仕事に就けて、それなりに対価をもらえて、ちゃんと税金が払えて、という流れが普通ですよね。そういう流れが普通にできないこと自体がおかしいのです。だからそこを議論する必要があります。教育どうしようか、教育のお金どうしようか?と本当に徹夜してでも議論をして考えなきゃいけないと私は思いますよ。国や自治体が「こども食堂さん頑張れ」と言ってくれるけど、議論する必要があるのは違うところでしょ?って思います。
だから私はこども食堂にしても、ほかの活動にしても、自分のできる範囲で、手の届く範囲のところでできることをやればいいと考えています。ここでできることをやりながら、今私がお話ししたようなことは訴えていきたいですね。
―こどもの居場所
近藤:今、教育の現場が壊れています。先生の数が少ないし、その先生がメンタルをやられてしまうし。そもそも教員の数が少なくて、休んでいる先生の補充ができないんですよ。授業ができなくて通信簿がつけられない中学校もあります。そんな状況を差し置いてこども食堂だなんて、私はおかしいと思っています。
夏休みに入ると給食がなくなるから痩せる子がいる。そんなこと前から言われてますよ。国なり自治体なりが夏休みに入る前にさっさと米を配って、もしお母さんが仕事で忙しくて米を炊けないなら子どもにやらせればいいわけですよね。食育でもあるし、自分が災害時でも何でも「生き抜く力」を少しずつでも身につけられるじゃないですか。炊き方わからなかったら近所のおばちゃんに聞きなさいって。そういうことが今すごく大事なことだと思う。
こどもの居場所でいえば、今子どもたちには道路で遊んではいけないという教育をしているので遊べる場がないんです。公園だってボールも使えないですよね。子どもたちに「スマホからもう少し離れるようにしましょう」なんて言ったところで、放課後の校庭だって自由に使えない。そういう自由に遊べるところをどんどん奪っておきながら、スマホはダメ、ゲームはするな、なんて言ったってそれは無理ですよね。
だから「その街全体がこどもの居場所になるにはどうしたらいいか」という議論の方が大事です。危ない時には注意するけど、どこで遊んでもいいよという風にしてくれたら、子どもたちは勝手にかくれんぼしたりするでしょう。でも、そんなことできない状況を大人が作っているわけです。そういう状況になったことを反省もせずに、また新しいことをやろうとするから、それは結局同じことの繰り返しになっちゃう。

―こどもを地域で育てる
近藤:こども食堂に来ている人たちの中には、困りごとをたくさん抱えている人もいます。ですが、困りごとを解決するなんて到底無理だなと本当に思います。困りごとは非常に重層的だからです。解決してあげようと思っているわけではありませんが、こちらにつなげればなんとかなるだろうという気持ちもありました。しかし、全然なんとかならない人が多いのです。役所につないで縦割りの制度の中で対応できる困りごとであれば、ある程度解決に導けるのですが、それ以外の問題は解決が難しいのです。
そういった困難を抱えていても、日々地域で生きていけるようにするためには、地域に少しずつつながりを持てるフックをたくさん作ることが一番大事だと気づきました。やっぱり最終的には本人が選択することになります。それが良い選択かどうか迷う時もありますが、たとえそういった選択をしても日々こちらで生きているのです。そのようなつながりの中で、私たちにできることは何かを考えることだと思います。
土足で踏み込むようなことではなくて、「(あなたを)気にしていますよ」というオーラは発する。でも敢えて、なんかいろんなことは言いません。こどもが「助けて」と言うのではなくて、こどもからシグナルが出た時に気づいて声かけをするなどですね。日頃は距離感を持っていながら、なにかあった時には近寄れる関係づくりが地域の中でできれば、孤独死も減るかもしれないし、路上生活にならなくてもいいかもしれないと思います。
岩崎:自分たちでできることをやるのが大切ですね。私たちは大きな企業ではないのでできることは限られますが、それをひとつずつやるしかないなと思っています。やっぱりコツコツ続けていくのが大事だとは感じています。近藤さんは今、地域を子どもたちの居場所にというお話をなさっていました。その光景は昔は当たり前にあったはずです。ただそれがどうして今はないのかというお話ですよね。
私は子どもの頃、家にゲーム機がありませんでした。ただ、外にいるだけでも、いろいろな遊びがあったから遊べたんですよね。カラーバットとカラーボールあればそれこそどこでも遊び場でした。他人の家のベランダにボール飛び込んで「ごめんなさい!ボール入っちゃいました!」なんて言うと、そこの家の人にめちゃめちゃ怒られるとか。
近藤:ありましたよね!うちの子どももそうやって道路で遊んで、「また他人の家にボールが飛び込んじゃったよ、また母さんが謝りに行かなきゃいけないんじゃない?」みたいな感じで遊んでたんですよね。
でもそれが今はまったくできない。その当時に戻せとは言わないですけど、でももうちょっと子どもが遊べる場所ってないのかなと思います。
岩崎:国や自治体は子どもたちの遊び場を作ろうとしますが、それよりも子どもがどこへ行ってもどこで遊んでも大丈夫なエリアというか、街を作ってあげた方がいいと思うんですよね。
近藤:そうなんですよ。大田区も若者の場所を作っていますし、それは別に悪くありません。でもそこに行った若者が「いやーちょっと違和感ありますね」と言ってこっちへ帰ってきちゃう。行かなくなっちゃったりするんですよね。その子には合わなかったと言われればそうなんだけど。じゃあその居場所を作る会議の時に若者がいたのか、当事者がいたのか、それは疑問です。そう言ってしまえばこども食堂だって「あんたの思いで作ったんでしょ」と言われればそうなんですけどね。

―ちゃんと目を向けることが大切
岩崎:豊島区に「としまこども団」という中間支援団体があります。そのミーティングに参加したときに、不登校を克服した20 歳ぐらいの子が来てくれました。どうして不登校になったかなど、当事者を交えてみんなで議論しました。やっぱり大人たちの視点とズレはあります。でもその子たちは、包み隠さず話してくれて、今はすごく元気に過ごしてくれているのが嬉しかったですね。子どもの意見を大人がどう吸い上げるかは課題だと思いますが、大人たちが子育てしている親を見て、「親がダメだからしょうがないでしょ」で片づけてしまい、子どもたちに手を差し伸べるのをやめるのは良くないと思います。子どもへ真っすぐにスコープを当てることを先ずやって、次にそこからどういう支援や施策が良いかが見えてくるはずなんです。
近藤:聞くだけじゃダメだし、アンケートするだけじゃダメ。その回答を踏まえて、大人たちは一歩でも半歩でもいいから動かないと、「聞くだけなのか」と思われてしまいます。声を聞いたら聞いたなりに、「じゃあどうする?」というところの議論をやらないといけないんじゃないかなと思っています。
先日、ヤングケアラー協会の宮崎さんを呼んで研修をさせてもらいました。「こんな声かけがあったおかげで、自分はその状況を乗り越えられた」といったエピソードや、具体的な支援よりも、「どんな環境や存在があったからこそ、その時期を乗り越えられたのか」という当事者の話を直接伺うことが目的です。ヤングケアラーの人たちのことも「東京都がお金を出すから、お金貰ってやり始めたら?」という人がいるのですが、当事者につながらないと悩むわけです。そんなに簡単に繋がれません。
現在うちでお弁当を配達しているご家庭もヤングケアラーです。その彼が言っていたことが印象的でした。お母さんがご病気になって介護に関わる人たちは、彼がいても「こんにちは」と通り過ぎていくだけだったそうです。でも、あるドクターが「こんにちは。どうしてる? 元気かい?」と声かけてくれたことがすごく嬉しかったし、自分にもちゃんと目を向けてくれてるんだって思ったって言うんです。どうつながって、どう声かけをしていくかで、多分結果が違ってくるのではないでしょうか。
―こどもが笑顔じゃない国は滅びる
岩崎:会社で自分から手を上げて「お店のこども食堂」の活動をやらせていただいているのですが、正直私も最初はあまりわかっていませんでした。子どもたちへのボランティアに参加したこともあるにはあったのですが、この活動を始めてから実情を見ると、びっくりするぐらい違うものでした。子どもたちの悪い境遇は全然報道もされてないし、実際に足を踏み込むと「こういう子って本当にいるんだ」という子にたくさん会いました。今この活動は、「止めちゃいけない」という責任感で進めている印象がすごくあります。うちの企業でできる小さなことを 1 個ずつ、緩やかに右肩上がりでやっていこうと思ってやらせていただいています。
近藤:子どもが笑顔じゃない国は滅びます。それは日本の大人たちはちゃんと肝に銘じた方がいいと思います。特に「国」の人たちは。やっぱりこどもが笑顔でない国は絶対に滅びます。
岩崎:気にかけてあげるだけでいいんですもんね。
近藤:絶対そうですよ。「どうしたの?」とかそういう声かけはすごく大事だと思うんです。大人だってそうじゃないですか。何にも言われず無視されると、それだけでも心が折れそうになる時もありますよね。現在は子育て中のお母さんたちは情報が多すぎて、「子どもがこうならなきゃいけない」という情報に合わないと、どんどん自分のこどもをダメだと思うし、自分の子育てをダメだと思ってしまうんですよね。
だからこういうところ(こども食堂など)に来た時に「大きくなったね」とか「ご挨拶できるようになったね、すごいね」とか、「しっかりしてきたね」とか、そういう会話をするとお母さんは「そうなんですか?」と言ってきます。やっぱり声をかけて認めてあげるだけで嬉しいし、気持ちが明るくなるのでしょう。

―「お店のこども食堂」のきっかけは近藤さん
岩崎:実は、近藤さんにまだお話しをしていないことがありまして。
近藤:なんでしょう?
岩崎:当社は2017年に当時の東証マザーズ市場に上場したのですが、その時から当社のビジネスが活かせるオリジナリティある社会貢献活動を探していました。 その際に近藤さんが出演していらっしゃったテレビ番組「カンブリア宮殿」がきっかけになって「お店のこども食堂」を始めることにしたんです。そのためこの活動は、近藤さんのあの VTR から始まったともいえます。2019年の1月に「飲食店さんと一緒にこども食堂をやる」という構想をもってスタートし、その後一歩一歩ゆるやかに右肩上がりで活動を広げることでようやく形になってきて、外部の方にもお話できるくらいにはなったのかなあと思います。
近藤:そうだったんですか。良かったのか、悪かったのか、大変なところに足を踏み入れさせてしまいました。
岩崎:今日は長い時間お付き合いいただきありがとうございました。近藤さんとお話するといつも時間があっという間です。また来週の月曜日にお会いするんですよね。
近藤:はい、月曜日は私も「大田区こども食堂連絡会」に参加します。こちらこそありがとうございました。